以前、ある店舗物件を内見した時のこと。
退去した前テナントは、配食のお弁当専門業者でした。
業者のホームページを見ると、高齢者向けのお弁当を配達するサービスを全国に展開している、そこそこ大きい企業のようです。
ホームページでは利用客の健康に配慮して、安心・安全な食事を提供することを強調していました。
その店舗跡を内見したのは、すでに大半の厨房機器が撤去された後で、わずかに業務用のシンクと備品類が残されていただけでした。
そこに新たに厨房設備を導入できるかどうかを見に行ったわけですが、調理場であったはずの店舗内を見て、すぐに違和感を感じました。
まず、排気用のダクトを設置していた形跡がありません。
撤去時に取り外したのならそれらしい跡が残っているはずですが、ビルの事務所によくある換気扇が天井に付いているだけなのです。
事前にその業者がどんなお弁当を提供しているのか確認していたので、どうやって揚げ物や焼き物を調理していたのか疑問に思いました。
もう一つ気付いたのが、壁面にたくさんの電源コンセントが設置されていること。
配電盤を見るとブレーカーが3台あり、合計で150A以上使用していたようで、10坪に満たない調理場としては相当な電力量です。
ここからは勝手な憶測なのですが、配食の業者はガスを使わず、電子レンジやIH調理器のみで調理していたのだろうと思われます。
それらの機器を使えば、油煙の排気やガス漏れ事故防止のためにダクトを設置する必要もないでしょう。
セントラルキッチンで製造された加工食品を、冷蔵や冷凍状態で営業所に納品し、注文毎に加熱して提供していたのだろうと考えられます。
現場での調理は、炊飯と生野菜を洗うことくらいだったのではないでしょうか。
食に関わる『産業』の一端を見た想いでした。
ちなみに、米の子にも自宅にも、電気炊飯器と電子レンジはありません。
炊いたごはんを保温する保温ジャーは使っています。
そういえば数年前、ネット上の口コミサイトのレビューに「明らかに電子レンジで温め直した玄米を出している」と書かれていたことがありましたね。
さて、これまで何人ものお客さんから、「どうやって玄米を炊いているの?」と質問を受けました。
家庭ではなかなか、玄米がもちもちとした食感に炊き上がらない、というお悩みをもっていらっしゃるようです。
電気炊飯器で炊いている方が大半で、玄米モードという機能も備わっているようですが、やはり圧力鍋と同じようには炊けないそうです。
米の子では、ドイツの調理器具メーカー・フィスラー社の『ロイヤル(新型)』という圧力鍋を使っています。
4.5リットルが2台、8リットルが1台ありますが、ロイヤルは2010年に廃番になったとのこと。
以前通っていたマクロビオティック教室で同じ機種を使っていたので、まず自宅用に4.5リットルを1台購入。
さらに開業の時に4.5リットルと8リットルを1台ずつ購入しました。
店を始めてから、おそらく5000回くらい玄米を炊いていますが、すべてこの3台でまかなってきました。
蓋にはめるパッキンや消耗する部品を何度か取り替えてはいますが、本体は丈夫で、まだまだこれから先も長く使えそうです。
一生モノと呼んでも良いかもしれません。
圧力鍋には、「おもり式」と「スプリング式」の2種類があるようですが、ロイヤルはスプリング式です。
蓋の中心に取り付ける部品の蒸気口の中に、スプリング(ばね)が取り付けてあって、加熱して温度が上がると蒸気でピンが持ち上がる仕組みになっています。
メインバルブと呼ばれる部品で、高圧と低圧の二段階を選べるようになっており、玄米は高圧で炊きます。
販売元に問い合わせたところ、高圧での鍋内の最高温度は約116℃、気圧は約115㎪とのこと。
国産メーカーの圧力鍋の方が温度も圧力も高いものが多いようですが、僕はこのロイヤルの使い勝手が気に入っています。
玄米を炊く時は、最初に強火で加熱して、蒸気が「プシューッ」と漏れ出してからそのまま1分。
その後、ピンが下がらないよう(圧力が一定になるよう)弱火にして、夏場は21分、冬場は24分かけて調理します。
ピンの上がり具合で圧力のかかり方を判断して、弱火の火加減を調整するのが、玄米を炊くコツのひとつです。
厨房のガスレンジのレバーは手動式で目盛りもありませんから、微妙な火力の調節が必要で、その日の室温や周りの調理の火加減などにも左右されます。
毎日のように玄米を炊いても、毎回同じ炊き上がりにはならない、というのが正直なところ。
今日はどんな炊き上がりになるかな?と、毎回が楽しみなのです。
玄米の浸水時間についてもよく質問されました。
浸水は一晩、あるいは7、8時間以上かけないと、やわらかく炊けないと考えている方も多いようです。
米の子では、まず米を洗ってから約1時間水切りをします。
その後、圧力鍋に入れて玄米と水、ひとつまみの塩を入れてから約1時間浸水して、火にかけます。
1時間の水切りをしてから1時間浸水する方が、2時間浸水するよりも炊き上がりがおいしい、というのが僕の持論です。
玄米の炊き具合を左右するのは、水の量と、強火の後の弱火の加減です。
水の量が少ないと固めに炊き上がり、多すぎるとべちゃっとやわらかくなります。
水加減は好みもあると思いますが、お弁当やおむすびなど冷めたごはんで食べるなら、水が多めの方がおいしく感じるはずです。
ちなみに水の量は、鍋の容量と炊く玄米の量によって変わります。
炊く量が少ないほど水を多くして、加熱した時に十分な蒸気ができるように加減します。
弱火の火加減が弱いと、ピンが下がって(圧力が下がって)もちもちとせず、さらっとした炊き上がりになります。
逆に強すぎると、なべ底に固いおこげができて、糊のようにやわらかすぎるごはんになってしまいます。
ほんのりとおこげがついて、もちもちに炊き上がるのが理想の火加減ですが、先に書いたとおり毎回同じようにはいきません。
まだまだ修行が必要だと感じさせられますが、仕事の醍醐味だとも思います。
もちろん、電気炊飯器や電子レンジにも便利な点がありますので、使うのが悪いわけではありません。
ただ、ごはんを炊くというシンプルな工程の中にもさまざまな要素があって、自身のちょっとした選択で結果が大きく変わるという体験をされるのもおススメです。
「日本人はお米で育つ」というのが、米の子のモットー。
玄米を圧力鍋でおいしく炊いて、たくさん召し上がってくださいね。
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